理屈っぽく悩む主人公に共感した〜火花 / 又吉直樹(著)
火花
芸人の又吉直樹さんの書いた小説「火花」を読みました。
2015年に芥川賞を受賞して映像化もされているこの作品に接する機会はいくらでもありましたが、Kindleで買ってからも1年以上放置していました。
でもふと読もうと思い立って読みはじめたらそのまま一気に読みきってしまって、またその日のうちに読み返してしまいました。
特に印象的だったのが「文体」
まず印象に残ったのが、独特の「文体」です。
文章は漢字が多めで、古くさい言い回しもありますが、一方で話し言葉はリズム感のある関西弁です。
こんな組み合わせの本は今まで読んだことがありませんでした。
江國香織さんの「行間に含みのある文体」も好きだし、村上春樹さんの一般的に「翻訳調」と呼ばれるシンプルな文体も好きです。
でもこの又吉さんの書く「古くさい標準語と関西弁の組み合わせ」も新鮮で面白いと感じました。
理屈っぽく悩むのがいい
また主人公が理屈っぽく悩んでいるのにとても共感しました。
著者を反映していると思われる主人公の芸人徳永が、尊敬する芸人の神谷に対して抱くこんな言葉があります。
『神谷さんの淀みなく流れるような喋りを聞いていると、自分が早く話せないことに苛立つ時があった。
頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。
複数人での会話になると更に顕著だった。
人の数が増えると言葉の数も増える。
一つ言葉が耳に入ると、そこから派生した別個の流れが生まれ、頭の中でいくつものイメージが交差して、どこから手をつければいいのかわからなくなるのだ。』
また自身のことに関して書いているこの部分も気に入りました。
『僕は周囲の人達から斜に構えていると捉えられることが多かった。
緊張で顔が強ばっているだけであっても、それは他者に興味を持っていないことの意志表示、もしくは好戦的な敵意と受け取られた。
~中略~
確固たる立脚点を持たぬまま芸人としての自分が形成されていく。
その様に自分でも戸惑いつつも、あるいは、これこそが本当の自分なのではないかなどと右往左往するのである。
つまり、僕は凄まじく面倒な奴だと認識されていた。』
※引用部分の改行はこちらで入れていて、原文では改行はしていません。
主人公が理屈っぽく悩んでいるのがよく分かります。
著者もこんな風に理屈っぽく悩む方なのかもしれませんが、この理屈っぽさがいいです。
不器用な主人公に共感した
こんな人が友達だったら若干面倒なのかもしれませんが、こんな不器用な主人公に共感しました。
私自身も人に興味を持ってもらえる話をするのが苦手なので、つい話すこと自体が面倒になってしまうことがあります。
そのためいつも人の輪の中心にいて、淀みなく話が出来て、しかもその話が人を惹きつけるとしたらどんなに良いだろうと思うのです。
文藝春秋 (2017-02-10)
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まるこ
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